逆にフェンダーから作る発想
スタンス愛好家にとって命の次に、いや、時と場合によっちゃー命よりも大事なのがホイールとフェンダーだったりする。ベースカーがなんであっても、この2点の選択を間違えちゃったらもう、ネット上でもカーショー会場でも、それどころかフラッと立ち寄ったコンビニの駐車場ですら、見向きもされない"生き地獄マシン"or"成仏できない愛車"と化してしまうのだから、これほどホラーなことはない。だからこそ、だれもがココを戦略上の最重要拠点として捉え、お行儀よく言うならば切磋琢磨でシノギを削り、下品に言えば"仁義なきマウント取り合い合戦"を無限ループで繰り返す。
以上の前フリからうっすら推理できるように、今回のカバーカーことスバルWRX STIタイプSも、ホイールとフェンダーの造形美にかけてはかなりの上位ランクにヨユーでおさまる1台だ。
オーナーの森尻サンは、免許取得後イッパツ目の愛車としてWRXの最高峰モデルを新車購入。この時点ではスタンスがあーだとか、マニュアルミッションがどーだとかいったコダワリは全然なく、ただ己の本能に従い、「見た目がカッコいいから買った(笑)」という、ナチュラルすぎる理由を貫いた。で、スタンスへの転向のキッカケを作ってくれたのが、群馬のプロショップ"ムーンテック"の田口代表だったそう。なんでも"家の近所のお店"だったことから知り合いになり、田口サンのクルマの知識&熱量&人柄などなどを総合的に加味して、"全部お任せ"でWRXのモデルチェンジを依頼することに。それがだいたい去年の今ごろのハナシだ。
となると、次は田口サンの口からWRXの製作ストーリーを聞きたくなってしまう。早速彼にマイクを渡してみよう。
「ワイドフェンダーにもいろんなパターンがあって、ちょっとだけたたき出したヤツからビス打ちまくりの超ワイドな加工モノまで、あらゆるスタイルがありますよね? でも、それってどれも『ホイールのサイズに合わせたフェンダーなんじゃね?』って思ったんですよ。
だから、この考え方にシバられてフェンダーをイジってたんじゃあ、いつまでたっても世界レベルで勝てないんじゃないかなと(笑)。
そこで逆に、ボディにフィットする美しいフェンダーを優先させることにしたのが、今回のWRXの最大のポイントです。サイズで言うとフロント30㎜出し、リア50㎜出し&70㎜アーチ上げ。あんまりサプライズ感はないですけど、フェンダーのデカさよりも美しさにこだわってるんで、数字で勝負する気は最初からありません」
と、冷静なお言葉が。じゃあ美しさのためにどこに力を込めたのかって言うと、その1は素材だ。市販のキットを使わず、かといってパテで成形するわけでもなく、鉄板の加工&溶接でオリジナルのワイド美へと到達。これは時間が経っても変形や変色する可能性が少ないことから選ばれた作戦で、つまり人間に例えると、「整形したけど、劣化したらヒドいブスにっ!」みたいな訴訟沙汰になったりしないで、大好きなWRXに森尻サンが乗り続けていけるように考え抜かれた、田口サンからの愛あるクルマ作りの回答なのだ。
力点その2は"耳"に注目。純正状態のフェンダーの耳は、だいたい30㎜くらいの幅がある。当然これはスバルのお偉いサンたちが徹夜しまくってベストと判断した長さで間違いないが、グラマラスになったフェンダーとの相性は、マッチングアプリを使わなくても低いパーセンテージであることがモロバレに。そこで耳の幅を半分の15㎜にまで縮めるネタも出し惜しみなくぶっ込み、数あるワンオフ物件の中でも存在感がありありな、無二のコクとパンチの効いた旨味を引き出した。
以上のフェンダーから顔を出すホイールには、ロティフォームの3ピースモデル"ROC"をイン。ブラッシュドマットDDTのフィニッシュはグリーン系のボディカラー&純正イエローキャリパーとのコーデにすんなりなじみ、センスと意識の高さがジワリと染みてくる。
WRXは日本国内はもちろん、世界的にライバルの多い人気モデルだ。だからこそココまで徹底しなければ、業界でサバイバルすることなど不可。世界を相手に"いいね!"をもらうのはムリなのだ。フェンダーに対する逆説的発想がたどり着いたこの結論をもって、世界がうらやむWRXに対する締めの言葉に代えさせていただく。
外周のギザギザ模様がメカニカルな印象を掻き立てるロティフォームROC(18×10.0−25/10.0−52)。センターロックスのセンターロックも装着し、その印象はより一層強固なものに。なお、左に見えるSTIのエンブレムだが、フェンダー拡大に合わせショート加工されてるの、気付いた?
ホイールのどアップ写真。ザラついて見えるフィニッシュは、ブラッシュドの上からマットDDTなるものをコートしたせいだ。ピアスボルトもマットブラックにすることで、クールで無機質な色気がダダ漏れる。
鉄板を加工して作り上げたフェンダーを、ボディに溶接&周囲と溶け込ませた職人芸を見よ! フロントサイドの出幅は約30mm。外側の“耳”の幅もこのデザインとのバランスをとるべく、純正の半分となる15mmに狭められている。
出幅50mm、アーチ上げ70mmとなるリアフェンダー。エアサス+ティーディメンドフルアームで落としたときのホイールとの位置関係があまりにも芸術的すぎて、トリ肌ブワァーーッ!!
マジで走る気はなくても、STIの看板を背負っているからにはそれなりのムード作りが必要だ。そこでブリッドのジータⅣバケットシート、ナルディの330mmステアリング、ワークスベルのラフィックスⅡなどで体育会のノリを演出す。
走る気マンマンな気配はリアにも! オクヤマにワンオフで作らせた6点式ロールケージを、ブレーキキャリパーと同じイエローで塗り上げてぶっ込み完了。
ロールケージの付け根部分を眺めてみれば、シートやパネルがキレイにくり抜かれてるじゃねーですかっ! これ、足元のフロアマットも同様で、「組んで終わり」にしないショップの美意識ってヤツが丸出しに。
エアリフトの3Pシステムがエアサスのマネージメント関係を担当する。ヘアライン入りのエアタンク、バイエアーのコンプレッサーがスペアタイヤのエリアでつるむ。
「エクステリアは完成。次はSTIらしい速いクルマにしていきたいです。フェンダー同様、だれもやっていないことにトライしたいので、コルベットのV8換装とか(笑)」と、破天荒なプランをブチ上げていたオーナーの森尻サン。
source:ムーンテック 0270-61-7495 https://moontech.jp
photo:Hirotaka Minai text:Akio Sato(rsf)
★パーツ構成
OWNER:RYUYA MORIJIRI BASECAR:2018 SUBARU WRX STI TYPE S
EXTERIOR:TOYOTA PASSO DARK EMERALD MICA BODY PAINT, FRONT 30mm/REAR 50mm FENDER FLARE,
REAR ARCH 70mm RELOCATE、STI FRONT UNDER SPOILER/SIDE UNDER SPOILER
WHEELS:ROTIFORM ROC(F=18×10.0-25, R=18×10.0-52), CENTER LOCKS CENTERLOCK SYSTEM
TIRES:ATR SPORT(F=225/35R18、R=225/35R18)
SUSPENSIONS:PLOOM AIR SUSPENSION, AIRLIFT 3P MANAGEMENT SYSTEM, VIAIR COMPESSOR, T-DEMAND F/R FULL ARM
TUNING:BLITZ AIR CLEANER
INTERIOR:NARDI φ330mm LEATHER STEERING、WORKSBELL RAPFIXⅡ, BRIDE ZETA Ⅳ FULL BUCKET SEAT×2,
OKUYAMA 6POINTS ROLL CAGE、MOON TECH REAR SEAT & FLOOR MAT RE-UPHOLSTERY
Stance magazine #47 巻頭:STANCE AUTO SALON2021より